大阪地方裁判所 昭和27年(行)50号 判決 1955年11月15日
原告 大同繊維工業株式会社
被告 大阪福島税務署長
主文
被告が昭和二六年六月二〇日附原告に対してなした原告の昭和二四年度(昭和二三年一〇月一日から同二四年九月末日まで)における普通所得を金二、六〇六、六八四円とした決定中金二、五九五、〇八二円を超過する部分を取消す。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、被告が昭和二六年六月二〇日原告会社の昭和二三年一〇月一日から同二四年九月三〇日までの事業年度(本件係争事業年度と略称する。)における所得額の中間申告に対し普通所得金二、七〇八、一八八円とした中間更正決定及び同日同事業年度における所得額の確定申告に対し普通所得金二、六〇六、六八四円とした更正決定を各取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告会社はメリヤス等の繊維製品の下請加工を業とする資本金三、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社であるが、本件係争事業年度における所得額について、昭和二四年五月三一日純益金五四六、一四一円九一銭との中間申告をなし、次で純損金六七、一七四円との確定申告をいずれも被告に提出したところ、被告は過少申告なりとして、前記請求の趣旨掲記の通りの更正決定をなした。原告会社は真実各申告通りの所得しかなかつたから右被告の決定を不服として昭和二六年七月一七日大阪国税局長に対して審査請求をしたところ、同局長は同二七年六月三日附原告会社の右審査請求を棄却し、原告会社に対して不当課税をしたので、原告は前記被告の各更正決定の取消を求める為本訴に及んだと述べ、
被告の原告会社が金二、二〇〇、〇〇〇円の簿外貸付金及びこれに対する未収利息金一〇四、六七六円の債権を有する旨の主張に対し原告会社が昭和二四年三月二四日資本金八〇〇、〇〇〇円から金三、〇〇〇、〇〇〇円に増資をなし、帳簿上被告主張の資産を以て増資払込金二、二〇〇、〇〇〇円に振替処理をしたこと、右増資に際して大洞栄治その他の増資新株引受人が富士信託銀行より連名で増資株払込金相当額である金二、二〇〇、〇〇〇円を借受け、同銀行に右同額の原告会社名義の預金口座を設定することにより増資株金の払込を完了したこと、右増資手続完了後原告会社は右富士信託銀行の預金により大洞栄治等の各増資新株主に対してその払込金相当額を返還し、同人等は更に原告会社より返還を受けた金員により富士信託銀行に対する同人等の各借入金を返済したことはあるが、昭和二二、三年頃は急激な貨幣価値の下落の為名目資本では到底事業運営が不可能で、各会社とも増資に次ぐに増資を以て事業を継続していた状態であつたが、大資本を擁する会社は格別中小企業に過ぎない原告会社においては株式の公募の方法で増資金を獲得することは困難であり、縁故募集の方法により増資金を調達する外なく、しかもこの方法は急場の資金の需要に間に合はないので、已むなく原告会社は巷間中小規模の会社において行われている実例に倣い増資以前に大洞栄治等の後に増資新株引受人となつた者等から逐次その引受予定株払込金相当額の金員の交付を受け、これを原告会社の運転資金に利用していたので、増資払込金全額に相当する金員の交付を受け終つた際には既に借入金は、被告主張のような資産に転化し、費消して仕舞つていたところから、前記のように大洞栄治等が富士信託銀行より借入れた金二、二〇〇、〇〇〇円を以てその引受株金の払込に当て増資手続を完了したものである。ところで前に大洞栄治等から逐次交付を受けた金員は法律上は原告会社の同人等に対する借入金であるから、前記のように原告会社は増資完了後大洞栄治等に対して富士信託銀行の原告会社名義の預金口座に預入れられた増資払込金を以てその借入金の弁済をなしたものである。されば、被告主張の原告会社の資産には右借入金が対応するものであるから、これを称して簿外の所得となすことはできないししたがつてまた、被告主張のように原告会社が大洞栄治等の新株主に対して金二、二〇〇、〇〇〇円の簿外貸付金及びこれに対する未収利息金の債権を有するいわれはない。
また、被告の簿外預金を原告会社が有する旨の主張に対し、本件係争事業年度の期末に大洞栄治名義の三和銀行福島支店に対する預金口座に金四六六、六八二円の預金残高が存在したこと、大洞栄治が福井において浪速織物工場を経営していることは認めるが、前記預金は大洞栄治個人の預金であつて原告会社とは何等の関係はない。
更に、被告の設備ミシン台数、従業員数、或は電力使用量からする生産高の推計を基礎として所得を算出しうるとの主張に対し、原告会社は当時罹災の為使用に堪えない設備ミシンを相当台数有し、従業員も三分の一は創業当時の会社建物及び設備を完備する為の労働に従事し、他の三分の二はいずれも素人の見習工であり、電力使用量も引込線の設備不完全の為無駄な消費が多かつた当時の状態下においては、これらを基礎として生産高を推計すること自体が無理であり、また原告会社は創業当時で他の同業者と同一に論ずることを得ないから標準利益率を適用するに不適当であるのみならず、被告の適用した標準率は昭和二四年度の水増課税の際被告が一方的に作成したもので何等合理的根拠はないものであると述べた。
(証拠省略)
被告指定代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、被告のなした各更正決定の違法であるとの点を除くその他の事実は総て認めるが、被告が原告会社の所有金額を中間申告に対する更正決定により金二、七〇八、一八八円、確定申告に対する更正決定により金二、六〇六、六八四円と査定したのは次の理由によるものである。すなわち原告会社の中間並びに確定申告とも申告額が過少である疑があつたので、実地調査した結果次の所得があることを発見した。
(一) 確定申告分について、
一、簿外資産による所得の認定、
(1) 簿外貸付金及び未収利息
原告会社は昭和二四年三月二四日資本金を金八〇〇、〇〇〇円から三、〇〇〇、〇〇〇円に増資し、帳簿上同年同月二九日増資額金二、二〇〇、〇〇〇円が定期預金金八〇〇、〇〇〇円、支払手形金五〇〇、〇〇〇円、機械金七三九、〇〇〇円相当、車輛運搬具金二五、〇〇〇円相当、備品金一一、〇〇〇円相当の資産を以て払込まれたように処理している。しかしながら、各増資新株引受人等により原告会社に対し現実に株金の払込がなされていないから、右増資は原告会社の簿外の隠匿利益金で取得した前掲の資産を以て増資に充てる為の操作と解する外はない。すなわち右増資に際して、原告会社代表者大洞栄治が個人として他の主だつた株主とともに富士信託銀行より増資株払込金相当額である金二、二〇〇、〇〇〇円を借受け、同銀行に右同額の原告会社名義の預金口座を設定することにより増資株金の払込を完了し、増資手続完了後直ちに右預金から立替の形式で大洞栄治等の富士信託銀行に対する債務を返済するとともに、原告会社の前記簿外資産を以て資本の払込に振替処理したものであるから、原告会社は増資に伴つて簿外資産として大洞栄治等に対し増資金相当額である金二、二〇〇、〇〇〇円の貸付金と右金員に対する未収利息金一〇四、六七六円(昭和二四年四月一日から同年九月三〇日までの一八三日間の日歩二銭六厘の割合による金員)を有することになる。
(2) 簿外預金
実地調査の結果原告会社は浪速織物工場代表者大洞栄治個人名義で三和銀行福島支店に当座預金口座を有し本件係争事業年度期末に残高金四六六、六八二円の預金債権を有することが判明したが、右預金は原告会社において利用しているのみならず、大洞栄治個人の資産に計上されていない事実からすると、原告会社の簿外資産に外ならない。
右(1)、(2)の簿外資産合計金二、七七一、三五八円から調査結果判明した原告会社の未払利息金九七、五〇〇円と、原告会社申告に係る欠損金六七、一七四円を控除した金二、六〇六、六八四円を原告会社の本件係争事業年度間の普通所得金額と決定したものである。
二、生産高による所得の推計
そうして右更正決定による所得額の正当であることは次の生産高による所得の推定計算の結果によつても肯認されるところである。
すなわち、原告会社の本件係争事業年度の従業員の延稼動日数は一一、八六六日(原告会社の稼動裁縫機がその申立通り一三台としても上記の稼動日数は必要である。)で、そのうち冬物生産期である昭和二三年一〇月一日から同年一二月末日まで、及び同二四年八月一日から同年九月末日までの間の延稼動日数合計三、七〇一・五日、夏物生産期である同年一月一日から同年七月末日までの間の延稼動日数八、一六四・五日で、従業員一人当りの一日の生産高は冬物一、五打乃至二打、平均一、七五打とし、夏物二打乃至二、五打平均二、二五打として、右稼動日数を基礎として生産高を推計すると冬物の生産高は六、四七七打六二五、夏物の生産高は一八、三七〇打一二五、年間合計二四、八四七打七五〇となる。しかるに、原告会社の申告生産高は年間一〇、五九二打に過ぎないから、一四、二五五打(打以下切捨)が除外売上数量と推定される訳である。これを一四、〇〇〇打としてこれに夏冬一打当りの平均販売価格金一、八〇〇円を乗ずると除外売上高は金二五、二〇〇、〇〇〇円となりこれに標準利益率二〇パーセントを乗ずると除外売上利益金は金五、〇四〇、〇〇〇円となり、右利益金から原告会社の認める損金六七、一七四円を差引いた残金四、九七二、八二六円が原告会社の本件係争事業年度の所得となる。
次に電力使用量から生産高を推計するに、原告会社は昭和二四年六月一日から同年九月末日までの四ケ月間の電力使用量は六、五六七キロワツトで、これを年間に引直すと一九、七〇一キロワツトとなり、電力一キロワツト当り標準生産高は一、二五打であるから本件係争事業年度間の原告会社の生産高は二四、六二六打二五となり前掲従業員の稼動日数を基礎とする生産高の推計に大差なく、また前掲除外売上額は原告会社の前記簿外預金の本件係争事業年度における入金合計額金二五、一五六、四二六円七一銭とも近似し、これらの推計の正確なことを肯かしめるものである。
したがつて、被告のなした確定申告に対する更正決定には何等の違法はない。
(二) 中間申告分について、
前記のように調査の結果被告は原告会社の簿外貸付金二、二〇〇、〇〇〇円、簿外預金五九、五四七円〇四銭(更正決定の為調査当時右金額しか判明せず。)を確認したので、これに原告会社申告に係る利益金五四六、一四一円九一銭を加算すると合計二、八〇五、六八八円〇九銭となり、右金額から前記未払利息金九七、〇〇〇円を差引いた金二、七〇八、一八八円(円以下切捨)が原告会社の本件係争事業年度上半期間の所得と査定した。
そうして、右所得金額の正当なことは次の推計生産高を基礎とする所得の計算の結果からしても肯かれるところである。
すなわち、原告会社の本件係争事業年度の上半期間の従業員の延稼動日数は六、一一二・五日で、このうち冬物生産期である昭和二三年一〇月一日から同年一二月末日までの間の延稼動日数は二、九九〇・九日、夏物生産期である昭和二四年一月一日から同年三月末日までの延稼動日数は三、一二二日であり、従業員一人当り一日平均生産高は冬物一、七五打、夏物二、二五打であること前記の通りであるから、右稼動日数を基礎として生産高を推計すると冬物生産高は五、二三三打三七五、夏物生産高は七、〇二四打五〇〇合計一二、二五七打八七五となる。しかるに原告会社の申告に係る生産高は上半期間五、五四六打であるから六、七一一打(打以下切捨)が除外売上数量と推定されるので、これに夏冬一打当り平均販売価格金一、八〇〇円を乗ずると除外売上額は金一二、〇七九、八〇〇円となり、標準利益率二〇パーセントを乗ずると除外売上利益金は金二、四一五、九六〇円となる。右金額に原告会社申告の上半期間の利益金五四六、一四一円を加算すると金二、九六二、一〇一円が本件係争事業年度上半期間の原告会社の所得金額である。
また、前記電力使用量から生産高を推計した結果も右稼動日数を基礎とする推計生産高と大差はなく、且つ前記簿外売上金額は簿外預金の上半期間の入金合計金一、五三九、四九一円一二銭とも近似し、右推計計算の正確なことを肯かせるものがある。
したがつて、原告会社の上半期間の所得を金二、七〇八、一八八円と更正した被告の中間更正決定は何等の違法の点はない。と述べた。
(証拠省略)
理由
大洞栄治が代表取締役である原告会社がメリヤス等の繊維製品の下請加工を業とする資本金三、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社であること、原告会社が昭和二四年五月三一日本件係争事業年度における上半期間の所得金額を金五四六、一四一円九一銭として中間申告を、次で本件係争事業年度間の所得金額につき純損失金六七、一七四円との確定申告を被告に対してなしたところ、被告は昭和二六年六月二〇日附中間申告に対し普通所得金二、七〇八、一八八円確定申告に対し普通所得金二、六〇六、六八四円と更正したこと、原告会社が右各更正決定に対し昭和二六年七月一七日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和二七年六月三日附通知書を以て原告会社の審査請求を棄却したことは、いずれも当事者間に争がない。
一、そこで先づ争点である確定申告分についての原告会社の本件係争事業年度間の所得額について考察することとする。
(一) 簿外資産による所得の認定
(イ) 簿外貸付金及びこれに対する未収利息金について、
被告は、原告会社には金二、二〇〇、〇〇〇円の貸付金及びこれに対する昭和二四年四月一日から同年九月三〇日までの一八三日間の日歩二銭六厘の割合による利息金合計一〇四、六七六円の簿外資産がある旨主張するから考えるに、原告会社は、昭和二四年三月二四日資本金八〇〇、〇〇〇円から金三、〇〇〇、〇〇〇円に増資をなし、定期預金金八〇〇、〇〇〇円、支払手形金五〇〇、〇〇〇円、機械金七三九、〇〇〇円相当、車輛運搬具金二五、〇〇〇円相当、什器金一二五、〇〇〇円相当、備品金一一、〇〇〇円相当の資産を以て右増資金の払込に振替え処理していることは当事者間に争がない。そうして、原本の存在並びに成立に争のない甲第九号証及び証人伝崎正郎の証言によると、右増資に際して大洞栄治及び原告会社の主だつた株主等が増資払込金相当額である金二、二〇〇、〇〇〇円を富士信託銀行から借受け、同銀行に右借入金と同額の原告会社名義の預金口座を設定することにより増資株金の払込を完了し、増資手続終了後右預金より大洞栄治等の富士信託銀行に対する借入金を原告会社が立替払の形式で返済したことが認められる。(富士信託銀行より増資払込金の借入をなした者及び借入金返済の形式の点を除いては当事者間に争がない。)右認定を覆すに足る証拠はない。
以上の認定事実からすると、原告において、前記資産の取得に要した資金の源泉を明かにしない限り、前記のような原告会社の増資の方法は会社の隠匿資産を課税標準の計算上所得に加算されることなく、正規の会計帳簿に資産として登載する手段としてなされたものと解するの外なく、したがつて増資後においては、課税標準の計算上は一応原告会社が各増資新株主に対して増資払込金相当額である金二、二〇〇、〇〇〇円の貸付金の簿外資産を有するものとなさざるを得ないし、また、原告会社が営利会社であること、実業界における金利の一般的標準と認められる本件係争事業年度当時の銀行貸付金の利率が日歩二銭六厘であつた当裁判所に顕著な事実に徴するときは、原告会社は前記貸付金に対する増資の後である昭和二四年四月一日から本件係争事業年度の期末である昭和二四年九月三〇日迄の一八三日間の日歩二銭六厘の割合による未収利息金合計金一〇四、六七六円の資産を有するものと認めるを妥当とする。尤も原告は、前記増資払込金二、二〇〇、〇〇〇円に振替え処理した前記資産は、いずれも各増資新株主等より増資前に逐次引受株払込金相当額の借入をなし、これを資金として賄はれたものであるから、隠匿資産ではない旨主張し、前記甲第九号証証人太田勝基、稲坂理一、原告会社代表者本人の各供述(第一、二回)は概ね右原告の主張に沿つているが、右の事実が真実であるとするならば寧ろ原告会社にとつては有利な資料であるから右の経過を有の儘に記帳し得た筈であるのに、前記のような帳簿上の処理をしていること、原告会社代表者本人の供述するように同人が金五〇〇、〇〇〇円、稲坂理一、川上末男が各金一五〇、〇〇〇円を原告会社に増資前に交付したとすれば、原告の本訴における主張に照すと、大洞栄治等はそれぞれ原告会社に対する右交付金相当額の増資新株式を有していなければならない筋合であるに拘らず、原告提出の甲第一二号証が真正に成立したものと認められるとしても右大洞栄治、川上末男はいずれも各金五〇、〇〇〇円宛、稲坂理一が金一〇〇、〇〇〇円の増資新株を有しているに過ぎない事実が認められ、その間に矛盾の存すること、また甲第九号証の記載のように前記資産の中大洞栄治個人の預金五〇〇、〇〇〇円はその関係する東海莫大小株式会社より身を退いた際同会社より大洞栄治が交付を受けた精算金で昭和二二年一二月二日銀行に預入れたものとすれば、大洞栄治が右預入前に右金員の交付を受けていなければならない理である筈に拘らずこの点に関する右原告会社代表者本人の供述(第一回)はあいまいであり、真正に成立したと認める乙第五号証によると大洞栄治が東海莫大小株式会社より右精算金を受取つたのは昭和二三年一一月九日であり、金額も多少異つている事実が認められること、証人伝崎正郎の証言により認められる原告会社が本件各更正決定に対して審査請求した際右証人が調査した結果によると、原告会社の前記資産の取得に要した資金については、原告主張のような事実を認めるに足る資料がなかつたこと、等を彼比綜合すると、未だ原告の主張に沿つた前記各証拠は当裁判所の心証を得るまでにいたらないし、他に原告の主張を認めて前記認定を覆すに足る証拠はない。
(ロ) 簿外預金について、
原告会社代表取締役大洞栄治が三和銀行福島支店に預金口座を有し、本件係争事業年度の期末において金四六六、六八二円の残高を有していたことは当事者間に争がない。
被告は右預金を原告会社の簿外資産であると主張し、原告はこれを否認するから考えてみるに、当事者間に争のない大洞栄治が個人で浪速織物工場を経営している事実、成立に争のない乙第三号証によると右工場の昭和二四年度の収支計算に右預金を資産として計上していない事実、当裁判所が真正に成立したと認める乙第一号証の一乃至一〇、第四号証の一、二により認められる右預金口座は原告会社が設立されて後開設されたものでその出入金も頻繁で、本件係争年度間の入金総額は金二五、〇〇〇、〇〇〇円に及びかつ原告会社の取引先と見られる業者えの出金の多い事実等を綜合すると、右預金は原告会社が大洞栄治個人の名義で有していた資産であると認めるを相当とする。この認定に反する証人中島泰三、原告会社代表者本人の供述(一、二回とも)は当裁判所の信を措かないところであり、他に右認定に反する証拠はない。
尤も被告は本件係争事業年度の期末の前記預金の残高を以て原告会社の本件係争年度間の資産に加算さるべき旨主張するけれども、所得計算上益金に算入されるべきものは当該事業年度における資産の増加であるから、右当座預金についていえば乙第四号証の一、二により認められる本件係争年度間の前記預金の増加額金四五五、〇八〇円(期末残高金四六六、六八二円から期首残高一一、六〇一円を差引いた額)を本件係争事業年度間の原告会社の益金の一つとして算入さるべき簿外資産と認定するを相当とする。
そうだとすると、原告会社は本件係争年度間において、前記簿外貸付金二、二〇〇、〇〇〇円、未収利息金一〇四、六七六円及び簿外預金四五五、〇八〇円右合計二、七五九、七五六円の簿外益金から、被告の自から認める未払利息金九七、五〇〇円と当事者間に争のない損失金六七、一七四円を差引いた合計金二、五九五、〇八二円の所得を有したものと認定せざるを得ない。
(二) 生産高による所得の推定
被告は原告会社従業員の稼動能力、または電力使用量を基礎として生産高を推計する方法により原告会社の簿外の純益を算出すると推計の結果は近似し、いずれの場合においても簿外売上高は金二五、〇〇〇、〇〇〇円余となりこれに標準利益率二〇パーセントを適用すると純益は五、〇〇〇、〇〇〇円を下らないから、これを下廻つた原告の更正決定は違法でない旨主張するので考えるに、証人伝崎正郎の証言によると、原告会社の当時の稼動ミシン台数は一三台で、従業員が一日平均四三人就業していたことが認められ、原告会社の従業員の本件係争事業年度間の稼動日数、その中夏物冬物各生産期間の従業員の稼動日数、本件係争事業年度間の電力使用量等に関する被告の主張は原告において明に争はないから自白したものと看做れるところであるが、推定計算の基礎となる従業員一人当り一日平均の生産高、電力一キロワツト当りの平均生産高、製品一打当りの販売価格、販売高に適用される標準利益率等についての被告の主張する係数が如何なる資料に基くものであるかについて被告の立証はないから、被告主張の推計の結果が果して合理的なものかどうか当裁判所には判断がつかない。尤も証人伝崎正郎は原告会社の簿外販売高、純利益について被告の主張にそつた供述をしているが、同証人も右簿外販売高の算出の根拠について明確にせず単に結果だけを供述し、これに適用した標準利益率が正確な資料に基き算出されたものかどうかについて何等触れるところがないから、前記証言は単に想像に基く意見に過ぎないものと解せざるを得ないところであつて、したがつてこれを採つて証拠となすわけにはいかないから、被告の生産高を基礎とする所得の推計に関する主張は採用の余地はない。
また被告は前記簿外預金の年間の入金高から原告会社の簿外販売高を推認しうるというけれども、預金の入金高のみから製品の販売高を推認する何等の合理的根拠はないから、これを前提として所得の推計をなしうるとの主張も亦採用の余地はない。
そうすると、被告の確定申告に対する更正決定中普通所得金二、五九五、〇八二円を超過した部分は違法として取消さるべきものである。
二、次に中間申告分について原告会社の本件係争事業年度上半期間(昭和二三年一〇月一日から同二四年三月末日まで)の所得額について考察する。
前記認定からすると、簿外貸付金二、二〇〇、〇〇〇円と前記乙第四号証の二により認められる大洞栄治名義の簿外預金の本件係争事業年度上半期末の増加額金一五九、九五五円九〇銭(期末残高金一七一、五五七円八九銭から期首残高金一一、六〇一円九九銭を差引いた残額)は原告会社の本件係争事業年度上半期間の利益金として加算さるべきものであるから、当事者間に争のない上半期間の益金五四六、一四一円と前記貸付金二、二〇〇、〇〇〇円及び右預金増加額の中金五九、五四七円〇四銭を加算した合計二、八〇五、六八八円九五銭を同期間の益金と見て、右金額から被告の自から認める未払利息金九七、五〇〇円を差引いた残額金二、七〇八、一八八円(円以下切捨)を本件係争事業年度上半期間の原告会社の普通所得と認定した被告の中間決定には爾余の判断を待つまでもなく何等の違法はない。
よつて、原告の本訴請求は被告が昭和二六年六月二〇日附原告会社に対してなした原告会社の本件係争事業年度の所得を金二、六〇六、六八四円と更正した決定中普通所得金二、五九五、〇八二円を超過する部分の取消を求める範囲において相当であるから認容すべきであり、その余は失当として棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 相賀照之 中島孝信 仲江利政)